完調日記9

完調日記(2010/06/21)

テーマは、韓国の好色本ってどんな内容? である。

 

前回、私がソウル大に寄贈する本について、あらあらと説明したが、内容を一切話さなかったことを、ちょっと反省した。もちろん、出し惜しみをしたことを、ではない。このままだと、想像力の逞しいウリハクセン(韓国語でうちの学校の学生のこと)にとんでもない想像をされるに決まっているからだ。そこで、『紀伊齋常談』中の代表的な話で、かつ比較的おとなしめのものを一つご紹介しておこう。

 

環屋隅(部屋の隅をまわる)

江原道の原州という所に、金姓を名乗る商人が居た。子供は四人居り、家は貧しく、異なる部屋に住むことが出来ずに、夫婦及び子供六人が共に一つの布団で寝ていた。四人の子供は、徐々に大きく成長するにつれて、父が母に近づけば必ず子供が生まれることを知るようになった。弟が生まれれば、それを背負って世話をしなければならない。その苦労を嫌がった子供たちは、父と母が近づかないように夜な夜な両親を監視した。ある日、商人が商売に出て十日後に帰ってきた。心からお互いを慕った夫婦は、夜中に子供たちが眠ると情を交わしたいと思った。夫は部屋の東の隅に居り、妻は西の隅に居た。中を隔てるように四人の息子たちが寝ていて、かつ部屋の中は真っ暗で夫婦はお互いを見ることができなかった。夫婦は、お互いを尋ね、呼び、応じようとしても、夫が南に行けば、妻は北へ居て、また夫が東へ行けば、妻は西に居るという具合で、四隅を巡って遂に会うことができなかった。夫は壁に沿って膝で這って巡ると、三男の足を踏んでしまった。笑いながらも大きな声で「痛い!」と言った。二男は続けて言った。「静かにしろ、お前は親父がお袋を探して何回も壁伝いに這っているのを知らないのか」。長男は傍らに居て言った。「お前たちはどうして寝もしないで親父が部屋を回っている回数を数えているんだ。いま、五周目だってことぐらい、すぐにわかるだろう」。それを聞いた夫婦は恥ずかしくなって其々の寝場所に戻った。

 

どうだろう。ちょっとドタバタ喜劇風で、なかなか面白いでしょう。微笑ましくもありますよね。

もちろん、こういう話ばかりでなく、ここで取り上げられない話も多いけど、最も大切なのは、「性」をめぐる話には庶民の偽らざる生活の実態が描かれることだ。それは「性」が人間の生活の最も中心的な部分の一つだからだろう。この『紀伊齋常談』の話からも、朝鮮時代末期の庶民の生活が彷彿としてくる。この本の価値の第一は、そこにあると思う。

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染谷智幸(そめや・ともゆき)所属は文学部文化交流学科

専門は日本文学(江戸時代)、日韓比較文学

父は人形師。その血を受け継いで人形をこよなく愛す。

写真はご存知、金太郎。

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