新聞に漫画を、そして風刺を

3月12日

本日の茨城新聞に紙面批評を載せた。下に添付する。

一応、ここでは漫画と人形について書いたのだが、本当はこの中にちらっと書いた「風刺」を問題にしたかった。ただ、地方紙で過激なことを書くと良くないので(その昔、茨城新聞ではなく、茨城放送でちょっとした事件を引き起こしたことがあった)、控えることにした。その控えたことをちょっと述べれば、日本の新聞には(新聞のみならず他の媒体もそうだが)風刺が足りない。たとえば朝日新聞の二面に針すなおさん、やくみつるさんの風刺画と思しきが載るが、これがなんともなまぬるい。寒風吹きすさぶ中、露天風呂に飛び込んだら、水ともお湯とも分からぬ温度だったという気分である。

たとえばお隣の韓国の新聞を見る。韓国の風刺画はすごい。ひとつ紹介するならハンギョレ新聞(ハンギョレとは一つの同胞という意味)、2015年12月18日のものだ。

いわゆる従軍慰安婦問題でソウルにある日本大使館の前に少女像が置かれたことはご存知であろう。そして昨年末に日韓の政府間で不可逆的云々の合意がなされたわけだが、その裏で少女像の移転の密約があったと報道された。それを享けての風刺画である。如何にも胡散臭い政治家(安倍首相の風刺である)が、この少女像の肩を抱きながら「こんなところに居ないで遠くに行こう、お金をあげるから」と優しく声をかけている。涙を流す少女像。そして左上には「デジャブ」の文字がある。

慰安婦問題には様々な意見があって、私も現在の韓国の状況に必ずしも賛成する立場ではないが、そうした問題を越えて、この風刺画は風刺画として極めて優れている。絶妙だと言ってよい。

もちろん、ここまでのものを日本の新聞に望むのは無理だろう。和をもって貴しとし、あからさまなものを嫌う、昨日の敵は今日の友が日本文化である。だが、この何分の一でも良いから、風刺の精神が欲しいと思うのだ。そうしたものを育ててゆかないと、いつか来た坂道を簡単に転げ落ちてしまう気がするのである。「征く人の母は埋もれぬ日の丸に」(井上白文地)、こうした句が詠まれる状況を生んではならないだろう。(ここのところどうも政治ネタが多い気がする。パストリッチさんの影響だろうか・・・)

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「四コマ漫画、日常への橋渡し」

毎朝、新聞の最後を飾る四コマ漫画の「カンちゃん」を楽しみにしている。硬い紙面が続いた後、カンちゃんは柔らかく、しなやかに日常との橋渡しをしてくれる。22日の「財布の欠伸」は傑作だった。お母さんの財布のガマ口が勝手に開く。壊れたと思って見まわすと、カンちゃん始め家族が皆大欠伸をしている。娘は言う「うつったのよ」と。夏目漱石の俳句に「永き日や欠伸うつして別れ行く」がある。同じ春の景色だがカンちゃんの方が即物的で面白い。私は昨今の消費税論議の影響で一向に開かない庶民のガマ口、その状況への揶揄とも見た。読み過ぎか。

私の専門分野は日本文学だが、約四十年間、研究を続けて来て確信したことがある。それは日本文化にとって漫画と人形がいかに大切かである。

漫画と言うといささか偏って受け取られるので、文字と絵のコラボレーション(協同)芸術と言った方が良いかも知れない。日本文化は鳥獣戯画や源氏物語絵巻の昔から始まり、江戸時代の浮世草子、黄表紙・合巻(ごうかん)を経由して今日の漫画文化を生み出した。これは世界に冠たるもので、お隣の中国や韓国にもない。たとえば江戸時代に「読本(よみほん)」という小説のジャンルがある。上田秋成の『雨月物語』や曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』等が代表作で、これは「読むための本」という意味である。本は読むのが当たり前だが、こうしたジャンル名が出て来るほど、江戸時代に既に絵本や漫画に類するものが多かったのである。

そうした歴史や伝統を踏まえた時、日本の新聞に漫画や絵に始まって柔らかい曲線の意匠が少ないのは残念だ。茨城新聞もいささか硬い。内容はともかく、題字、囲み記事、写真等々、四角が多すぎる。昨今はカラ―も増えて大分読み易くなったが、絵や漫画、毛筆等の曲線意匠をもっと生かしてよい。このままでは一人いや一匹で万丈の気を吐いているカンちゃんが可哀そうだ。茨城にはハッスル黄門やみとちゃん等印象的なキャラクターがたくさんある。それらをもっと活用したらどうか。もちろん、政治社会と娯楽に一線を画したいこともあろう。それなら政治面に針すなお氏(朝日新聞)のような風刺画を載せるという手もある。

さて、もう一方の人形。2月の後半は3月3日のひな祭りに向けての行事が報告されていて心が和んだ。内容については二月前半の郷土紙批評に丁寧な紹介があるので譲るが、真壁の移動編集局の企画は光る。こうした試みは是非続けて欲しい。と同時に茨城は人形の宝庫でもある。年間を通して人形を取り上げてみてはどうか。

たとえば県南に点在する綱火(操人形仕掛花火)、石岡の大人形、水戸常磐神社の農人形、そしてユネスコ無形文化遺産でもある日立の風流物等、数え上げたらきりがない。

また、人形制作技法を駆使して優れた立体作品を造る芸術家(戸田和子さん)も活躍されている(25日、県央版)。

日本の人形文化は、漫画と同じく世界に冠たるものだが、世界には人形ファンがたくさんいて日本のカワイイ文化としての人形に注目している。世界―日本―茨城と、上手く繋げて紹介出来れば、昨今やや消沈気味の茨城観光の目玉になるかも知れない。

染谷智幸(そめや・ともゆき)俳号は獄雨、切枝凡

専門は日本文学(江戸時代)、日韓比較文学

写真(著者撮影)はイスタンブールのアヤソフィア大聖堂に遺されていた海賊の落書き。

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